東奔西走 -其之五-

指定された讃州高松のチェックポイントは、真ん前に立たないと看板も見つけられない店。
先ほど目と鼻の先まで来ていながら、その看板が見つからなかったばかりに界隈を一周。とんだ回り道をしてしまったのだ。orz
ただし、ここは写真なし。退屈な拙文に暫しおつきあいくだされ。
さらに、飲み過ぎて記憶が曖昧なため、順不同、かつ漏れがあることを最初にお断りしなければならない。裏を返せば、印象に残っているものだけを挙げてもこれだけあったということ。
某師匠絶賛のその扉を開けると、先着者がカウンターにずらり。一番端に置かれた燗鍋と思しき鍋の前に蔵元が陣取っている。ツケ場から主の微笑みの出迎えを受け、席に着く。
それが、目くるめく官能の一夜のはじまりだった。
<田口トモロヲの語りに、音楽は"Also Sprach Zarathustra(ツァラトストラはかく語りき)"をぜひ> (^^;
酒はカウンターにおかれた蔵元の酒から料理に合わせ、適当にチョイスできる体制なっていたから、手近にあった"神力"からスタート。
お通しの"イカナゴの釜あげと菜のお浸し"がポツンとおかれた盆に最初に乗ったのは、"生トリ貝の刺身"だったはずだが、如何せん心許ない。鮮烈な磯の風味が鼻に抜けてくる。次ぎに「活きが良かったから、ちょっと変わったことを…」で出されたのが、なんと"鯖のルイベ"。鮭のルイベ同様、凍ったままスライスされる。生臭みもなく、口の中でとろける。青物好きを差し引いても文句なしに「うまぁ〜い」。
そして、なんとツケ場でキャベツが千切りされる。「寿司屋でキャベツ?」。目が点になったものの、その疑問はすぐに解けた。それを皿に盛りつけた上に鰆のたたきが、ポン酢をまとって出てきた。ほんのりと温められたことで、淡泊ながら魚のうまみがきちんと伝わる。鰆と春キャベツの甘みがデュエットしているようだ。
「店の中がわやになっちゃうんだけど…」といいながら、トロ箱からイカナゴの成魚を取り出し、塩を振ると、ツケ場の背中側のどう見ても水鉢という鉢で赤々と燃える炭火に網がかけられているのだが、その網の上で転がしはじめた。すると、白身で直径15mm(体長150〜180mm)ほどしかないのに脂乗りが良いのだろう、もうもうと煙が立ちこめる。そのうちにカウンターに座っていても目にしみて涙がこぼれてきた。「地元でも知らない人がいっぱいいる」といううまさのため、普通なら迷惑千万なことだろうに遠来の客をもてなそうと、あえて焼かれたイカナゴ。「真ん中から二つ折りにして、頭からパクッと…」。教えられたとおりに丸かじりしたら、白身で、しかもこの大きさでとはとても思えない濃厚なうまみ。たまらず杯を口に運ぶ。"オオセト"の酸がイカナゴのうまみと渾然一体となって、口福に相応しいひととき。こういう味に出会えるから、やはり口を持ってこなくてはならない。つくづく思わされた一品だった。
まだ口に残るイカナゴの味を丸物のトマトで洗い流す。寿司屋でトマトが丸ごと1個。これにも意表をつかれた。
当然、酒も休みなしに飲んでいる。"讃州山田錦"、"赤磐雄町"、"興"、"譽"、もう手当たり次第。10BYか11BYもあっただろうか。
「寿司も…」という蔵元の声で握っていただいたのだが、これまた驚きの連続。
白ミル貝、烏賊、そして小豆島産という鱸をおろしたら、なんと肝を叩きはじめた。これに塩を振ってシャリに盛り、鱸をにぎる。いわば、鱸の即席酒盗にぎりだ。どの魚も肝や白子のうまさは格別で、それが知れ渡ってからカワハギなども一躍高級魚になってしまった。良い漁場には密漁者が群がる始末。阿呆どもの片棒は担ぎたくないが、こういううまさを知ってしまうと、金に糸目をつけないバカが出てくることも不思議でなくなる。
後ろの火鉢で焼かれているのは皮目が銀色に輝く太刀魚。ザクッと切り分けられたと思ったら、なんと焼き太刀魚のにぎりに。「温かいうちに…」。その言葉が終わるか終わらないうちに1カンが口に。焼かれてうまみを引き出された太刀魚が口の中でほろりとほぐれる。
瀬戸内の穴子が火鉢で炙られ、ツメを塗られて出てくる。そうそうこれこれ。宮島のあなご丼が脳裏に甦ってきた。
だし巻きも火鉢で炙られ、ぬる燗ほどに温めてからにぎりに。控えめなだしの利かせ方と温められたことで玉子のうまみが引き立つ。冷たいだし巻きでは味わえない素材の持つうまみだろう。
話がこの季節の魚になり、「地元ならそろそろ川鱒が…」と口を滑らせたら、冷蔵庫から取り出した魚箱の中を見せ、「市場の箱物に混ざっていたんですよ。これがこちらの桜鱒です」と。炭火で焼き、人数分に取り分けられた鱒まで堪能。
最後の味噌汁で締めだったが、一つ一つにきちんとなされた手仕事。それも素材の持ち味を引き出すための見極めが見事。すべての仕事が目の前で行われるから、口からの衝撃に眼からの感動が加わって、師匠が、鳴門の海士が、揃って「絶品!!」の「太鼓判を押すわけだ」と得心がいった。
口を運んでくれた客に地のものだけで感動と満足を与えてくれる。
この店だけで讃岐へ行く価値あり。
久々にまた行きたいと思わせてくれる店に出会えたことがうれしい初四国の夜だった。
長文多謝。m(__)m


鮪もあるのかもしれないが、赤身さえ出てこなかった。バカの一つ覚えみたいにトロの脂乗りの良さを自慢する寿司屋に見習って欲しい。
しかも、この中身ながら、勘定はいたってリーズナブル。お江戸や大阪なら、いくら取られるかの心配をするより、怖くて近寄れない店になってしまうことだろう。
酒はこの店で常温貯蔵していたという、無濾過生原酒。しかも、そのほとんどが14BY。
こんなに時間がかかる酒だったとは… 先が思いやられるわい。orz

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東奔西走 -其之五-” に対して4件のコメントがあります。

  1. 三平 より:

    よ、よだれが・・・
    魚っくいには目の毒でござんす。

  2. Masamune より:

    江戸前の寿司としてなら、三平さんとこのあのお寿司屋さんが上でしょう。
    こういうスタイル、お江戸某所でも同様の経験をしていますが、魚っ食いにはうれしいですね。
    しかも、その地方でしか食べられないものばかりですし…。
    今度、ご一緒しましょ。車でなら、○播○さんか○天○さんと掛け持ちできますよ。
    ここへ行くがために海を渡ることになりますが。:-p

  3. 三平 より:

    是非!
    あたしも学生時代は数回海を渡ったことがありますが、船の食堂の讃岐うどんくらいしか記憶が無いです。

  4. Masamune より:

    良いですねぇ。学生時代は金さえあれば飲んでいたから。もっといろんなところへ行っておくんだった。
    中国道を走りたくなったら連絡入れます。:-)

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