年明けの便り2016

恒例となった木曾の佐藤阡朗さんの51回目となる『たらの芽通信』を拝借いたしまする。
 

民藝論と職人

 
 思わぬ出来事で日本民藝協会の専務理事という役目を2011年9月から実質に担うことに成って4年余りになった。柳宗悦の民藝論に殆んど無関心で漆の仕事に邁進してきた私は、この役目に未だ戸惑っている。
 この世に愛想を尽かして早大時代に世を去った兄の遺言を受けて、将来何の職があろうが、仕事を通して「産まれてきて良かった」と思える世界にしよう、と誓っての人生だった。
 美しさは不便と不均一の抵抗の中から生まれる。簡便と即席に浸かるこんにち、真の美から遠のくのは必然である。柳宗悦の求める浄土は私の求む美の浄土と重なる。だから漆の修業中、どれほどの先人の知恵と工夫と努力と謙虚さにこころ打たれてきた事か。また自然のめぐみに向いて感謝したことであろうか。私は民藝の理屈もその仏教哲学も知らないが、美しい世で生きたいし、未来にそんな美の世界を残して去りたいと思っている。
 柳宗悦が同じ世を思うなら、彼と私は同志である。ストイックに生き抜いた漆掻きの谷口吏さんや澤口滋さんの生涯を思うと痛く辛い。
 比べて私はユルく生きてきた。だから未だ生きている。昨今、凄いぞニッポンとテレビは採り上げる、人でもいいところを拾い上げられてはおしまいである。元々日本は世界最高に完成された美の国であった。
 協会のこの立場であと何が出来るか、少しは役立てるだろうか自信がない。

 2016年1月

佐藤 阡朗

(原文のまま)
 
改めて、穏やかな一年でありますように!

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