なんちゃって燗上がりに惑わされること勿れ

日本酒業界もネタ切れなのか、近頃『燗上がり』や『燗向き』を標榜する酒が増え、お手軽に追随する記事や商いも見受けられるものの、何しろ俄仕立てですから、相変らずの勘違いに気づいているとはとても思えないものも…。
中でも『甘さ』と『うまさ』の混同なんぞはその代表格でありまするな。

それにはまず、温度と味、すなわち味覚との関係を知っておかなければなりませぬ。
ヒトが『甘さ』を感じるピークは自分の体温ほどの温度の時
それよりも温度が低ければ低いほど、もしくは温度が高ければ高いほど、『甘さ』を感じなくなるのです。このことは味を神経に伝えるタンパク質の一つである “TRPM5″ が温度が上昇すると働きが強まることを突き止めた研究チームにより明らかにされていますけれど、問題は…
燗をつけることによって感じやすくなったこの『甘さ』を以て『燗上がり』
としてしまうことでしょう。

巨石@大阪城食物の味わいは中国の五行説による五味では『酸・苦・甘・辛・鹹(塩辛さ)』をいうものの、酒の味わいをいう時には『甘・辛・酸・苦・渋』の五味とされることが一般的ですな。もっとも時には『しょっぱい』と感じ取れる味わいに出会すこともありますから、あながち外れとはいえないかもしれませぬ。
とはいえ、この五味が多種多様につり合うことでそれぞれの酒の味わいを生み出していることに変わりはありませぬゆえ、すべての酒に共通する『甘さ』が感じやすくなったことだけで『燗上がり』というのは性急過ぎるというもの。

本当に『燗上がり』するにはやはり、まっとうな酒が持つしっかりした酸や程好い苦の要素に加え、味わいに『締まり』や『キレ』があってこそ。それが欠落した酒を『燗上がり』と呼んで憚らないなんて、化学調味料天こ盛りの食べ物ですら『絶品!!』と誉めそやす似非グルメのようなものですな。
かつて、燗をつけたら香気アルコールが飛んでしまい、『ただの砂糖湯』になってしまった、というひどい酒にも遭遇しておりますが、『甘さ』だけをもて映やすお子ちゃまベロから早く卒業いたしませぬか。

まっとうに仕込まれた本物の『燗上がり』なら…

    ●最後まで繰り返し飽かずに飲め
    ●アテが欲しくなり
    ●飲んだ後の清々しい満足感

そして…

    ●酔い醒めすっきり

となること請け合いですから…。

と少々のアカデミックさも込めて、偏屈おやぢからのご忠言を♪ (笑)


生酒の燗から

燗酒おやぢは何が苦手かって、生酒の燗ほど苦手なものはありません。
あの、もわぁ〜っとした臭いをわずかでも感じた途端、「うげ〜っ!!」となります。
この香りについては、『煮酒で呑』のkanzakerakuenさんは「生老ね香」と称されていますが、「ムレ香」とする向きもあります。
いずれにしろ、主にイソバレルアルデヒドがもたらすあの香りは、好んで嗅ぎたくない「匂い」ではなく「臭い」に違いありません。
ただ、中にはこの臭いをまったく苦にしない人もいます。
閾値の差とはいえ、あれが気にならないだけでも、おやぢの目には「剛の者」に映るのです。
生酒は、無理に燗をつけなくても良いのではと、あの臭さが平気な方だけにおすすめすることにしています。

少し話が逸れますが、おやぢは「仕込みは火入で完了する」を持論としていますから、昨今の無濾過生原酒こそが「できたまま」「純粋」「無垢」「素顔」の酒とする風潮には、はなはだ疑問を感じています。酵素という不安定な物質を死活させずに残すことが、果たして完成形なのだろうかと。
未熟児をいきなり成熟児と同じに扱う医療関係者や親はいません。それを無視して、あえて「生」を選択する理由はどこにあるのでしょう。

もちろん、限外濾過を行えば酵素も除去されますから、火入の必要はありません。この技術が生酒の常温流通を可能にしたのですが、肝心の香味まで取り去っては本末転倒でしょう。
確かに、火入で酒は変わるという欠点もありますし、生酒の方が熟成が早いという利点も認めますが、その間、あるいは蔵から出た後の貯蔵(保存)管理は、ただ低温を保てば良いというものでもありますまい。
たとえ時間はかかるとも、適切な時期にきちんと火入れし、熟成させてこそ味わえる形。それこそが、日本酒が文化にまで至った基本形であり、完成形でもあると思います。
そのためには、むしろ、火入(主にタイミング)と貯蔵・出荷管理の技術や手法の向上を図るべきではないのでしょうか。

火入が下手(タイミングの見極めややり方)が下手だから、もしくは火入に適した酒を仕込む腕がないから、その工程をスルーするということであれば構いませんが、それはまた別の話かと。
 


【ムレ香】
生酒を常温で貯蔵(保存)したときに発生する不快臭。
原因物質としてイソバレルアルデヒド、イソバレリアン酸エチル、イソバレル
アルデヒドジエチルアセタールの3物質が同定されている。

【生老ね香】
生酒を貯蔵(保存)した場合に発生する。ムレ香と同系統の不快臭。
老ね香がある程度強くなると生老ね香と呼び、生酒の過熟によって発生すると
考えられている。

ー改訂 灘の酒 用語集よりー【禁無断転載】