強力三味
強さと切れを兼ね備えた酒が飲みたかった。山田錦は… 外そう。ならば雄町の酒かとも思ったが、「待て待て、そういえば…」。ゆっくり見てみたかった酒に強力(*1)のがあるぞ。
「うむ、良きに計らえ」とばかり、小さな瓶を2本ぶら下げて帰途に…。
『日置桜 純米吟醸 伝承強力 無濾過生原酒 H16BY』
こちらは今酒造年度から切り替わった協会7号酵母の酒。原酒であることを差し引いても、酸のアタック感が16BYであることを忘れさせる味乗り。
飛び切り燗(55℃近辺)にしたら、「あぁ、出ちゃったよ」。生老ね香ともムレ香とも呼べる例の香りが…。orz
ところが、飲み頃まで下がると、「あれれ!?」。不思議なことに生ならではの熟成の早さと、原酒ならではの味の強さにマスクされて、あの不快な香りが気にならなくなった。
こうなればしめたもの。ぶわっと広がる濃厚なうま味を存分に楽しむ。はずだったが…。
如何せん、1合瓶に2/3程度。あっという間に空いてしまった。orz
『日置桜 八割搗き強力 H16BY 瓶貯』
これも協会7号酵母で仕込まれた低精白の強力だが、80%にしては雑味もなく、先の純吟同様、酸のアタック感(酸度:2.0)に裏打ちされながら、滑りよく切れる(日本酒度:+7.0)酒。
飛び切り燗から冷ますと、ボディに厚みが加わり、さっと切れる。普段飲みにできる価格帯の強力の酒として、実に楽しみ。
これは瓶貯蔵だが、蔵元の話では「タンク貯蔵の方が味乗りが早い」とのことで、そちらの発売を待つ日々だ。8月の予定とされているが、どうせなら9月まで待ちたいと思う。
『日置桜 純米吟醸 伝承強力』
これは14BYだったか。協会9号酵母らしい上品な味わいだが、それもやっと開いてきたと思われる。9号とはいえ、YKが鑑評会出品酒の花形だった当時の華やかな吟香はなく、あくまでも控えめ。
熱燗(50℃近辺)から下げて飲み頃で含むと、冷やよりふくらみは見せるが、9号らしく繊細で品の良い味わい。純吟の名に相応しいきれいな後味。15℃10ヶ月でようやく飲める酒になった。
鯖の塩焼きは7号の純吟無濾過生原酒で舌の脂を洗う。豚の冷しゃぶは山葵醤油で。これは7号の八割搗きと9号の純吟の出番。メダイの刺身も9号が主役。八割搗きでも良いのだが、これまた1合瓶に2/3では…。orz
合間にバクライを一口。うぅむ、こういう珍味をうまく食べさせてくれる酒はうれしい。
おぉ、グリーンアスパラと新じゃがの素揚げの油をもうまくしてくれるではないか。
トマトと胡瓜漬で口を直しながら、たっぷりと食べ、定量を若干上回る晩酌。
「余は満足じゃ」と、くちくなった腹をさすった夜だった。
これに『生もと強力』が加われば、日置桜の強力三昧となるところだったが、それはまた、16BYがいくらでも飲めるようになってから。:-)
*1:【強力】ごうりき
酒米。線状心白と呼ばれる澱粉質形状を持った稀少品種。
中国や東アジア系の米と交配されていない純ジャポニカ種と考えられている。
昭和20年代まで鳥取で栽培され、酒造家垂涎の大粒米だったが、人の背を超える長桿であったため、栽培の難しさから姿を消した。平成元年(1989)秋、鳥取大学農学部に原種のまま保存されていた一握りの種子を元に、30年ぶりの復活を遂げる。
醸造された酒は、重厚な力強さと切れ味に優れる反面、味乗りが遅いため、相当な時間をかけ、きちんと熟成させることが必要か。