旅は道連れ -1-
愚痴からはじめたが、道連れが良ければ、旅は自ずから楽しくなるもの。
山へ向かうコースだけに初日の昼は蕎麦だった。
訪れた先は、石臼で自家製粉(100%)したそば粉に山ごぼう(オヤマボクチ)の葉から作ったモグサをつなぎに入れ、つや出しに布海苔を加えた純手打ちという、山深い地で昔からの製法を守る店。
K兄夫妻ご推奨の蕎麦は、石臼の独特の風味・コシの強さ・格別な歯ごたえなど、古代伝来の味も好みが分かれるところらしく、T兄曰く「硬すぎて…」と、否定的な声もない訳じゃない。
心配していたが、この日は若干柔らめの仕上がりだったらしく、この時期にもかかわらず風味もきちんとあり、好ましい味だった。
モグサのせいか、色は黒砂糖でも使っているのかと思えるほど黒褐色に近い。つや出しの布海苔が表面をキラキラに輝かせる。
ともすると、つなぎの布海苔ばかりが目立ち、喉越し重視で色も緑がかった、いわゆる「へぎそば」が幅を利かすエリアにあって、この蕎麦はまったく異色の存在。T兄も「今日のなら…」と満足の様子。
写真がなくて残念だが、杏仁子(あんにんご*1)なる珍しい天麩羅にも出会えたし、まずは上々の滑り出し。
さて、次なる見所へと山間を駆けると、昔ながらにタモギの稲架(はざ)に架けられた稲が…。
目一杯の光学10倍ズームで撮った1枚が右の写真。
この時期出番のないスキー場のリフトを活用した「天空米」が耳目を集めているようだが、稲架架けの良さは天日による自然乾燥だけではなく、逆さにすることで茎の養分までもが稲穂に入り、結果として米をさらにうまくするのだと聞かされた。
農道沿いの稲架木と畦道に植えられた枝豆。とても懐かしい光景だ。
昔から伝わっているやり方は、なぜか理に適っていることが多いのだが、今ではこの一手間をかけられるところは稀になってきた。
*1:【杏仁子】あんにんご
ウワミズザクラ(*2)の若い実や蕾の塩漬け。葉とともに漬け、お茶うけなどにする。
*2:【ウワミズザクラ】上溝桜:バラ科・桜属
分布は北海道〜九州・温帯。花は穂状に咲く。樹皮は黒みを帯びた暗褐色。果実は8〜10月に熟して赤から黒紫色に変わる。果実酒は香りがよく美味。イヌザクラとの区別は,花の下に数枚の葉があるところで,イヌザクラには葉がない。