がんばれ、群馬泉

去る2月5日(日)、不運にも火災に見舞われた島岡酒造を訪ねてきました。
shimaoka_fire1.jpgご覧のように外壁は残っていますが、仕込蔵、貯酒庫、その2階にあった麹室、槽場、酒母室、と明治・大正から『群馬泉』を生み出してきた蔵の屋根がすべて焼け落ちていました。
その惨状に唖然としましたが、中庭でトラックの荷台に積まれたタンクに酒を移す蔵人さんたち。杜氏さんに声をかけ、どこかへ行かれる様子の副社長。専務は電話での打合せに暇がありません。
ただ、落胆しないはずはないでしょうにみんなの顔は思いの外、元気です。「なぜ?」
お見舞いの言葉に返ってきた専務の深々と頭を下げながらの一言。「こんなにしてしまって、すみません」お詫びされる謂れはありません。蔵側の過失ではなさそうですが、一部で報道された業者を責めるでもなく、我々を慮ってくださる。これもまた、頑なに山廃を守り、伝えてきた、島岡家ならではの伝統なのかもしれません。
専務の後に続いて中を覗くと抜け落ちた屋根から青い空が見える槽場。残念ながらヤブタは使い物にならなくなり、蔵の最奥部、酒母室では後始末の重機を入れるために早くも壁の取り壊しが始まっていました。
shimaoka_fire2.jpg再び中庭を経て仕込蔵の中へ…。
ちょうど社長が入ってこられたのでお見舞いをお伝えしようとするとあべこべに「こんなにしてしまって…」とまたまた頭を下げられてはこちらのほうが恐縮してしまいます。
「これでイヤな日本酒業界から足を洗われると思った」と冗談とも本音ともつかない言葉の後、貯酒庫への扉を開けて、「残骸が落ちたタンクの酒は廃棄しますが、これらが熱にやられずに残ってくれそうなのと、倅がやるというので…」
そうです。被災から3日目にして、苦難にめげず、再び蔵を生き返らせようとする蔵元と蔵人の想い。それがみんなの心を一つにし、生気に満ちた顔を作り出していたのです。
shimaoka_fire3.jpg仕込蔵の中はほとんど無傷。
生き残った醪は、「近くで同規模のヤブタを使う蔵の造りが終わったそうなのでそれを借りて搾ります。表のトラックに積んであるタンクやポンプ、ホースなども、あちこちから借りてきて、今、移している最中なんです」
「前回はここまでだったんですよ」
仕込蔵から出て、釜場に移ったところで再び専務が…。
「今回はきっちりその奥が全部…」
実は、島岡さんは2001年7月にも落雷による火災で母屋2階を消失。その火が釜場まで伝わって、屋根を葺き替えたという経緯があります。
今回も島岡家の方々や杜氏さん、蔵人さんたちに怪我がなかったことはなによりで、まさに不幸中の幸いと思わされました。
「ウチの蔵付き乳酸菌(シマオカ株という貴重なものとのこと)のことをご心配いただくのですが、今度試験場に来られた先生がそちらの専門で採取させてくれって持って行かれたばかり。あちらに冷凍保存してあるそうですから、培養して1回立てれば元通り蔵に付くようですし」
「鉄骨や流行りの素材の蔵はウチには似合わないでしょ?幸い基礎や主な柱も再生できるようですから、何とか今までの雰囲気のままで」
「ただ、麹室だけは蔵人の年齢も考えて下に移そうと」
再建する蔵の構想を専務からうかがいながら、心強く感じました。向かうべき方向に少しもブレがないのは流石です。
「絶対直して見せますから、できあがったらまた見に来てください」
専務のその声に見送られて、赤城山から空っ風の吹き下ろす地のお蔵を辞しました。
*拙blogにお越しいただいているみなさまへ*
不幸な出来事はあったにしろ、『群馬泉』はこれからも『群馬泉』たらんとしています。
脈々と続いてきた『群馬泉』の酒が一日も早く甦りますよう、どうかより一層のご愛顧をお寄せくださいませ。
はなはだ僭越とは存じますが、心からお願い申しあげます。


yubeshi_2.jpg余談ですが、ご家族や杜氏さん、蔵人さんたちの心痛が少しでも癒せれば…と煮酒さんも大好きな当地の“柚べし”の切出しを持参しました。
ちなみに、今も島岡さんのところの杜氏さんは“越後杜氏”。『竹鶴』の石川杜氏がおられた頃の神亀さんも同じく。
意外に思われるかもしれませんが、関東はおろか、日本全国を見回しても個性的な酒の部類に入る双方のお蔵で越後杜氏が活躍されていたこと、あるいは今も現役でおられること。それを特異なこととせず、越後流のさらなる発展に結びつけられれば、翳りが見え始めた新潟の酒造業界に新たな風が吹き始めるやもしれません。

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がんばれ、群馬泉” に対して18件のコメントがあります。

  1. ちゃむ より:

    今宵は、蔵の復活を祈りつつ、
    山廃本醸造原酒桶一号を呑みました。
    山廃酛純米、純米吟醸(火入れ&淡緑)
    今度は何を買おうかな・・・
    「しののめ」さんの定番酒でもありますよね。
    長岡の某山廃蔵も此処みたいなしっかりした
    造りだといいのだけど。(やはり炭?)

  2. かず より:

    とても心配していましたが、
    再興へ向け力強く進まれていることが
    感じられ少し安心しました。
    うちでも超特選純米を1合だけ飲みました。
    ほんと応援してます!

  3. ま・ぜら より:

    私も応援のつもりで
    しののめさんで、群馬泉飲んできました。
    群馬出身の上司に注いで見たら
    「群馬にもこんなうまい酒あったんだ」
    と、気に入ってもらえました
    私には、わずかな消費とせまい範囲での普及しか出来ないですが
    微力でも手伝い(のつもり)させてもらいます

  4. Masamune より:

    >ちゃむさん
    さっそく飲んでくださいましたか。
    アイテムは少ないですが、どれも“群馬泉”の型を持っていますよね。
    ただし、“淡緑”は反則だぁ〜!! (笑)
    それを「火入れしただけで、どうしてこうなるの!?」てくらい違いますけど、
    2〜3年ものの“淡緑”を飲むと、ちょっとだけ訳が見えてきますね。:-)

  5. Masamune より:

    >かずさん
    応援ありがとうございます。_(._.)_
    こちらも昨晩は“超特選純米”。ただし、H15.4詰という涼冷え(15℃近辺)自家熟成もの。
    あと5本。:-)

  6. Masamune より:

    >ま・ぜらさん
    最近、しののめさん、行ってないです。用事頼まれたし、そろそろかなぁ。;-)
    それはそうと、群馬でも知らない人のほうが多いですね、確かに。
    カミさんの実家へ行っても、これが飲める飲み屋さんは一軒だけ。
    冷や酒として売っていますが、当然、燗をつけてもらい、これしか飲みません。
    ひょっとしたら品薄になる時期もあるかもしれませんが、そうして気に留めてくださる方がいらしたら、復興も早まると思います。

  7. あっき より:

    島岡酒造さんの火災については、私にとってもショッキングな出来事でした。
    私の会社が太田市の東本町にあることから、島岡酒造さんのお店で群馬泉を買って飲む機会が多いのです。
    昔ながらの製法で、真面目に酒造りに取り組んでいる、そんな島岡酒造さんの復興を願って止みません。
    どんなに時間がかかっても待ちます。またおいしい酒を飲ませてください!!

  8. Masamune より:

    >あっきさん
    え、え〜!? あっきさんの会社、太田市にあるんですか?
    群馬は結構新潟のお酒が幅を利かせていますから、地元でもご存じない方が多いのに…。
    あっきさんのように仰ってくださる方々がいる限り、群馬泉は永遠に不滅です。(笑)

  9. より:

    酵母ではなく蔵付き乳酸菌でしたか。
    タイミングよく保護されていたのはなによりです。
    群馬泉を飲み始めたのは昨年からですが、
    今ではお気に入りの酒の一つとなっています。
    数年間は大変な時期が続くかもしれませんが、
    復興されることをお待ちしたいと思います。

  10. Masamune より:

    >有さん
    私も最初は「乳酸菌!? 酵母じゃないの?」と思っていたのですが、何はともあれ再建されることを素直に喜びたいと思います。
    ただ、とても大きな設備投資になるはずですから、たいへんなことに変わりはありません。
    我々はせいぜいお酒を飲ませていただくことでお手伝いしたいと…。:-)

  11. hige60 より:

    はじめまして。hige60と申します。ときどき読ませていただいておりました。
    群馬泉さんは、地元群馬の大好きなお酒であったため、火災のニュースを見て心配していました。
    今回の記事を読ませていただくと、早くも復活に向け頑張っておられるようで一安心しました。
    人も無事、蔵付き乳酸菌も無事というのであれば、きっと大丈夫でしょう。
    また、応援されている方がたくさんいらっしゃるのも心強いですね。
    私も陰ながら応援しつつ、さらにパワーアップして復活するのを待ちたいと思います。

  12. Masamune より:

    >hige60さん
    ようこそ、変人の戯れ言へ。:-)
    ご地元のファンがいてくださるのが、なによりも心強いことです。
    お酒もですが、蔵元さんやご家族もとても素敵な方々ですから、一緒に応援していきましょう。

  13. 狼亭 より:

    全く知りませんでした、島岡酒造さんの火災の件。
    以前より、しっかりとした酒質に注目しておりまして、おやぢさんが取り扱われているのは「うむ、なるほど!」って感じでございました。
    順再建が順調に進むことを、心よりお祈りいたします。

  14. Masamune より:

    >狼亭さん
    地方紙でしか報じられていませんからご存じないのも無理ないことと。
    きちんと熟したときの強さ・奥行きは流石ですよね。
    U組ではありませんが、西高東低(ウチだけか?(^^;)の日本酒事情の均衡を図る上でも
    なくては困る存在として、これからもがんばっていただきたい蔵元ですものね。
    余談ですが、今でも“越後杜氏”の造る酒であることが信じられません。(苦笑)

  15. Barcarolle より:

    群馬泉

    高崎で電車の待ち時間が結構あったので、途中下車して買った御酒。
    常温で呑むと、山廃らしい独特の香りが広がり、燗にすべき御酒であることを実感。辛口な御酒です。
    燗にしてみると、不思議丸い感じの優しさを感じるようになりました。
    食中酒としても適している印....

  16. ダイチ より:

    あっきさんに、教えていただいて、いつもこっそり拝見させて頂いております。
    遅まきながら、トラックバックさせていただきました。
    群馬泉が良い御酒ということは聞いていたのですが、呑んでみたいなーと思っていた矢先に、エントリーを拝見してショックを受けました。
    昨日まで旅行で群馬にも行っており、その時に高島屋で発見し、群馬泉を購入して飲みました。
    山廃の純米です。
    しっかりした造りの良い御酒ということが、呑んでみてすぐに分かったような気がします。
    こんな良い御酒を造る酒造、一刻も早い再建を!
    そして、また呑んでみたいです。

  17. masamune より:

    >ダイチさん
    ようこそ、変人の隠れ処へ。(^^;
    また、トラックバックありがとうございます。
    http://kanzake.com/blog1/log/eid508.html
    ここ↑でも書きましたが、変人歴のきっかけとなったお酒ですから、思い入れも一入。
    一日も早い復活のために、せっせと呑んであげてください。:-)

  18. 蔵元からの手紙

    こちらでお知らせした『群馬泉』の火災から二月。お蔵元から再建に向けての意気込みが綴られた手紙が届きました。 前略 過日の酒造蔵火災に際しましては、一方ならぬ温かい励ましと多大なるお心づかいいただきま...

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