決して『純米酒至上主義』ではなかったおやぢ。炭酒は苦痛だったが、アル添酒は許容範囲だったはずなのに‥。ああ、それなのに、最近、体が受け付けなくなってきたではないか。
杯を口に近づけた時点で「うっ」。口に含んだら「ううっ」。飲み込もうとすると「うぁうぁう」。喉がすぼまり、目を白黒。かろうじて飲み込んだとしても、それは既に拷問。
浮き世の義理とはいえ、そこまでして酒を飲まなくても良いだろうと我ながら思うが、狭い世間に都度角を立ててちゃ、歩く道も狭くなるばかり。かくして、責め苦に耐える日が月に何度かある。
飲んでいる間もつらいが、もっとつらいのは翌日。消化不良のアルコールが眼窩を腫らし、胃は鈍重の極みで喘ぎを漏らす。
この状況から抜け出すには、『まっとうな酒』でまずいアルコールを押し出すしかないと、きちんと練れた酒で傷を癒すことに。
いただき物の『楯の川 特別純米酒 H5BY』を熱燗に。開けたてはとても10年以上経ったとは思えぬインパクトがあったが、2〜3週間で落ち着いた古色をまとった酒に変わる。
こういう楽しみをもてるのも長期熟成酒ならではのこと。
そのせいか、カミさんは最近『杜の蔵 あんちっく杜氏の詩』がお気に入り。いつの間にか一升瓶を空にしてくれたようだ。『竹鶴 秘傳 純米酒』辺りを定番にするような贅沢はさせられないのだが‥。
流行りのプンケバ酒なんぞ、食べ物に合わせてみようがないから、俎上に上がることは無論ない。
兎にも角にも、毎晩まっとうな燗酒に慣れ親しんでいるだけで、こんなに体質が変わってしまうとは、実に驚き桃の木山椒の木。
「酒も 煙草も 女も止めて 百まで生きた馬鹿がいる」を気取るつもりはさらさらないが、一生に飲める酒は誰にだって限りがある。「浮き世の義理だ つきあいだ 不味い酒を我慢して 命縮めた馬鹿がいる」とならぬよう、まっとうな酒をきちんと見抜く舌を養っていこうじゃないか、世の駄酒飲み諸氏よ。
そうすりゃ、こちらもちっとはつきあいの良いおやぢになると思うんだが‥。