耳が痛い…

[2005/11/20 07:30 加筆] 長い上に諄いです(苦笑)
『酒にも飲み頃がある』とはいつも云っていることだけど、「これって、ひょっとしたら言い訳に過ぎないのかも」と思わされることが…。
次のようなお客様の声があるとなおのこと…
買ったとき飲み頃になっているべきなのに、まだ若いと知りつつ売るのはなぜ?
飲み頃になるまで熟成させてから売るべきなのでは?
本来の味わいを発揮しないうちに飲まれてしまっては、その酒が不幸じゃないの?
さらには…
同じお酒でBYが違うだけで、ここまで違うってどうして?
それ、すべてごもっともなことです。
Olfar-Eliasson1.jpgしかしながら、それを全うするには熟成させる場所と道具、在庫に対する金銭的負担など、よほど力がなければ敵わないことですし、それを売るための仕組みや価格に転嫁せざるを得なくなったとき、すべてを甘受してくれる寛容な飲み手が必要となります。
口の悪さで有名な某所でもそれを突かれることが多いのですが、我々が推すまっとうな造り手は小規模な蔵がほとんどで、残念ながら理想には程遠い現実と直面しています。地力が伴わないまま無理をすると、経営が立ち行かなくなる恐れも生じますし。
とはいうものの、決してこのままで良いわけではありません。
ただ、敢えて云わせていただければ、造り手だけにすべてを背負わせるのも酷というものかと。
次から次へと人気銘柄を漁ったり、また、作り上げたり、右から左へブツを動かすことが商いと心得ている売り手や、それに踊らされている飲み手。昨今の「勝てば官軍」的な風潮には組みせず、地道な努力を続けている造り手・売り手もおります。
手前味噌になりますが、まだ若いと知りつつ仕入れた酒を若いまま売るにせよ、我々はそれをきちんとお伝えします。熟成が足りない酒を我々の段階で寝かせることもしばしば。当然、仕入れた代金は支払わなければなりません。
これがヴィンテージを云々できるようなワインなら、できた年に買い付ければ飲み頃になってから買う場合の数分の一、数十分の一で仕入れることも可能なのですが、日本酒の場合、まだまだそういうことへの理解が市場にありません。
そもそも日本酒は狩猟民族的な経営スタイルに馴染まない、と私は思ってます。
まず地をつくることからはじめ、種を植え、あれこれ手をかけ、やっと収穫する。彼らからすれば理解し難い農耕民族の間怠っこさでしか、長年、先人たちが培ってきたものを次代に伝える術はないとも。
日本酒だけではありませんが、それが効率だけの工業製品に成り下がってしまったとき、『ものづくり』は廃れの一途をたどります。木を見て森を見ずの政治がそれに拍車をかけているにしろ、最後のツケは必ず消費者に回ってくることをそろそろ学習しても良いのではないでしょうか。
Olfar-Eliasson2.jpgすべての酒を飲み頃になってから売りたいのは山々なれど、我々の力の及ぶ範囲も限られており、このあたりの事情は造り手のそれと大差ありません。酒、特に日本酒は、消費の低迷も続いておりますし、端で考えるほど儲かるものでもありませんから。(苦笑)
それでも、飲み手にその酒の持つ本来の味を伝えたい、と微力ながら努めているつもりです。
その意味で、「客が店をつくり、店が客をつくる」ではありませんが、『飲み手が造り手をつくり、造り手が飲み手をつくる』ことがあっても良いと思います。また、『飲み手が売り手をつくり、売り手が飲み手をつくる』ことも。
酒を買うことは造り手を買うこと。どうせなら売り手をも買ってください。
「何を売っているか」ではなく、「どう売っているか」で酒屋を選んでいただきたいのです。
決してタニマチになって、とは申しませんから。(^^;
高みの見物を決め込むも良し、サポーターとして下支えするも良し。
飲み手・売り手の関わり方もいろいろあるでしょうし、肩代わりさせるのもどうかとは思いますが、まっとうな酒・まっとうな造り手を育てることは、売り手である我々とそれを受け容れてくださる飲み手にかかっているとも云えます。
いろいろな事情を理解したうえで、なお惚れ込める酒に出会った歓び。
それがあるからこそ、私たちは日々旨酒を求めて止まないのではないでしょうか。
最後の同じ酒でありながらBYの違いで酒質ががらっと変わる。これだけはちょっと意味合いが違います。
主として造り手側の事情ですが、蔵元や杜氏の目指す酒の型が変わった、杜氏そのものが変わったなどが代表的な要素かと。
原料米の出来による年較差はもちろん、使用する原料米や酵母が変わっただけでもブレは生じますが、造り手も日々研鑽を重ね、少しでも旨い酒を飲んでもらいたいという努力の中で、飲み手の反応を見ながら、さまざまな試行錯誤を繰り返しています。
その結果、同じ蔵の同じ酒でありながら別物になってしまうこともあり得るわけです。
良い変わり方でしたら、どうぞ賞賛を。悪くなったと感じたら、どうぞ叱責を。
それをきちんと造り手に伝え、さらなる向上を期してもらうことが、我々売り手の務めだと思うからです。
それも含めて、まっとうでありたい、理想に近づきたいと願っている造り手と売り手に、これからも変わらぬご理解とご支援をいただければ、これに勝る喜びはありません。
長々と、また言い訳じみてしまいましたが、取りあえず長い眼で見てやってください。(苦笑)
といいつつ、かつてワタクシメもこんなことを書いておりました。(さらに苦笑)


久々に長文を書いて、「間違いだらけの日本酒常識」を書かれた石川杜氏には及ばないまでも、せめてもう少し文才があれば…、とつくづく思いました。
草臥れたから酒飲んで寝ます。(笑)
[2005/11/20 09:00 加筆]
これの元になったのは、あっきさんとこで夫のつぶやきを書いておられる“かずさん"の記事だったのですが、こちらのニューズリーダーで捕捉後、ご当家倫理規程に抵触したのか、お蔵入りになったご様子。:-)
なかなかグラマラスなフォルムの徳利の写真もあったのに…。残念。(笑)
と書こうとしていたのです。
倫理委員会を無事通過してアップされたご様子なので、あらためてトラックバックを。
写真も無事復活。良かったぁ。:-)

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耳が痛い…” に対して14件のコメントがあります。

  1. かず より:

    とても勉強になり考えさせられました。ありがとうございます!
    その酒がいつもベストの状態で消費者の元に届くようになるためには
    越えなければならない課題がたくさんあるのですね。
    それならば、分かっている人は購入してから飲み頃まで待てばいいし、
    そうでない人はすぐ飲んでしまえばいい。
    現状ではそれが、むしろ正しいやり方なのかもしれないとも思いました。
    まっとうな酒が増えていくことに、少しでも力になれる飲み手になりたいと
    ふかく思ったしだいです。
    私のブログで削除してしまった記事、もう一度考えてから復活させるつもりです。

  2. あっき より:

    同じ銘柄でも様々な顔があるところが面白い。それが日本酒の魅力であると私は思っています。
    「う〜ん、これ若いね」な〜んて言ってみたりするのはそれはそれで素人ながら楽しかったりします。
    私は安定した人間国宝の芸を見るのも好きですが、まだ発展途上の若いやんちゃな役者の芸に魅力を感じます。だからそんな役者を応援したくなる。
    それは酒にも通じるような。。
    そんな酒に出会いたくて、また今日も飲むのでした(のんべえの言い訳?)

  3. Masamune より:

    >かずさん
    長たらしい言い訳におつきあいくださり、ありがとうございます。
    みなさま方になるべくご負担をかけないために我々がいるのだと思います。
    どうぞ殺さない程度にご活用ください。(^^;
    感じたことをそのまま口にできるのも呑兵衛ならではの特権。
    それが単なる誹謗中傷か、はたまた愛情ゆえの戒めかは、心ある造り手なら正しく理解できるはず。
    今日の一言が明日の旨酒につながると思って、これからも遠慮なくご発言ください。
    ちなみに、睡龍16BYはそうしたフィードバックを経て生まれ変わったお酒ですから。

  4. Masamune より:

    >あっきさん
    ご夫妻で真摯に向き合っていただき、ありがとうございます。
    仰るとおり、と私も思います。
    そして、発展途上の酒がある域に達したときの喜び、これは見出し、応援してきた者にしか与えられないものですものね。
    そのためにできることは… ただひたすらに呑む!! それだけで十分。
    呑兵衛、\(^-^)/バンザーイ、/( )\モヒトツ、\(^o^)/バンザーイ!! です。(笑)

  5. こんにちは。
    かずさんの記事と両方読みました。
    私もまた、酒屋に並ぶ商品は蔵元と酒屋の両方がいいと判断した商品なのだから、そのときが一番の飲み頃に決まっていると思っていた1人です。これから飲み頃に向かう商品を、「うーん、いまいちだなぁ」とどれだけ急いで空にしたことか(笑)。
    もっと早く燗酒おやぢさまや煮酒さまにお会いしたかったなぁ…。
    しかし、1年熟成してみたくても、夏の都内のマンションは留守中ムンムン♪ 日当たりのいい部屋はサウナ状態ですよね。現在の我が家は、午前中しか日が当たらないので、さほど暑くなりませんが(苦笑)
    東京では、夏は冷蔵庫以外には怖くて置けないでいますが、火入れした酒なら大丈夫なものなんでしょうか?

  6. ちゃこ より:

    はじめましてちゃこです
    あっきさんかずさんご夫婦のブログ読ませていただきながら、燗酒おやじ様の記事も読ませていただいておりました。
    皆さんの日本酒に対する思いが色々と感じられ、素直に感動しております。
    私も皆さんのお陰で日本酒と向き合い始め、勉強中ですが
    色んな人達の手を経て、色んな人の思いを詰め込まれて私の元へやってきた日本酒を大事に楽しく飲んで行きたいと思います
    これからも宜しくお願いいたします。

  7. Masamune より:

    >カンザワユミコさん
    こちらは今でも後ハネのひどい酒が当たり前に蔵から出てきますよ。
    胸が悪くなる上に、取っても置けない(=熟成に向かない)という、かわいそうな酒たちがゴロゴロ。(´ヘ`;)
    若い命ならぬ若い酒、あたら散らしてどうするの〜!! って。(笑)
    四合瓶はあまりおすすめできません。呆気なく終わって変わり目が楽しめませんもの。
    ウチの娘たちや玉さんとこも似たような住宅事情ですが、「冷蔵庫なんて要らな〜い」ですよ。(笑)
    火入れ酒はもちろん、生酒でも平気なものもあります。
    ただし、あくまでも「酒によりけり」デス。:-)

  8. Masamune より:

    >ちゃこさん
    ようこそ、変人の巣窟の一つへ。(笑)
    煮酒さんから突っ込みが入っておりましたし、カンザワさんへのコメントにも書きましたが、
    まっとうな酒は冷蔵庫なしでもへこたれることありませんよ。
    それには、まず酒屋を選ぶことです。:-)
    そして、四合瓶はどうしても割高になってしまいますから、すすめられた酒は
    一升瓶で買ってみてください。
    直射日光を避け、押入にでも入れておいてもらえれば、それで十分。
    飲み終えるまでに酒が見せる七変化もまた楽しいものです。:-)

  9. まき子 より:

    私も遅ればせながら、あっきさんの記事と合わせて読ませていただきました。
    本当に日本酒のことを考えている蔵元さん、
    そして蔵元のことを考えている酒屋さん、
    みんなの努力や苦労があって、美味しいお酒を飲めるのだなぁ、と感動してしまいました。
    飲む側としての自分も、何も知らないで右へ左へ振り回されて飲んでいた頃よりも
    今の様に、少しでも色んなことを知って飲んでいる方がとっても楽しく飲めます。
    そう!やっぱり目的は楽しくお酒を!
    んでもって、新たな発見を!です(笑)。
    こうして日々お酒を飲んで行こうと思うのでした。

  10. Masamune より:

    >まき子さん
    ダラダラと長いだけ(たぶん過去最長(^^;)の記事ですのに、コメントありがとうございます。
    ずいぶん不遜な言い方をしてしまいましたが、 ←だったら書くな?(苦笑)
    とどのつまりは「飲み手あってこそ」の酒です。
    お客様は神様です。三波春夫のセリフが身に沁みる今日この頃。(笑)
    酒はおいしく飲みませう。:-)
    あ、いけねぇ!! まだ送ってなかったね。スミマセン。ヾ(@o@;)/ ヽ(;@o@)ノ アタフタアタフタ…

  11. まき子 より:

    いえいえ(笑)
    手が空いた時で全然構いません〜。
    ありがとうございます!!

  12. Masamune より:

    >まき子さん
    ネコ、行きましたか?

  13. てるじい より:

    はじめて書き込みさせていただきます。 てるじいです。
    mixiではお世話になっております。
    恥ずかしながら、最近まで酒屋さんでお酒を買うときにBYを気にして買う事など殆どありませんでした。飲み頃の物だとばかり思っていました。
    みなさん自宅なんかでは寝かせてから、味の変化や乗り具合を楽しまれているようなので、そうなんだ!と気づきました。。。 恥ずかしいかぎりです。。。
    日本酒で寝かせると言えば、古酒をつくるために酒蔵さんがつくるものだと思っていました。 そればかりではなく、それぞれの飲み頃の時期(また、個人の好み)があるのですね。
    ワインはヴィンテージものと持て囃されたり、ブドウの種類はこれで、産地は。。。などと色々と知られていますが、日本酒にはそういったことがまったくといっていいほど、一般の人々には知られていないように思います。それが悲しく、残念で、悔しいです。
    日本人ならもっと日本酒を飲め!と思ってしまいますが、別に消費者の責任ではないので押し付けるわけではないのですが。 もっと、一般の人々に日本酒のよさを知ってもらいたいと強く思います。
    私事ですが、本気で日本酒に関わる仕事をやりたいと思っています。もっと一般の人々に日本酒のよさを知ってもらいたい。 もっとたくさん飲んで、もっと日本酒の勉強をして、もっと日本酒の良さを広めたい。 できれば酒屋(日本酒メイン)をやりたいなどと、おこがましいことを考えております。
    これからも色々と勉強させていただければ幸いです。 なんだか長い駄文になってしまいましたがご了承ください。 

  14. Masamune より:

    >てるじいさん
    ようこそ!! 臍曲がりの隠れ処へ。:-)
    こちらでは適熟と思っても過熟とされることもありますし、実にさまざまですね。
    とはいえ、その前提に「まっとうな造り」が問われることだけは確かかと。
    それをきちんと理解してくださる方が少しずつでも増えてくだされば、
    また増やしていかなければならないことと思っています。
    しかし、よりによって酒屋ですかぁ〜!?
    お〜い、変人組への志願者ですぞ〜!! (笑) >煮酒さん・三平さん
    茶化してしまいましたが、心強い味方が増えることは大歓迎。
    勉強していただくほどのものはありませんが、どうぞお気軽にお立ち寄りを。:-)

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