味の記憶

急に飲もうかという話になってアテを探したが、めぼしいものがない。
しょうがないから鯨の大和煮(缶詰)を開け、加島屋のはりはり漬けを器に移し、開栓2週間の『竹鶴 雄町純米 14BY』の燗でスタート。
竹鶴の雄町純米は甘とは無縁の切れ味。あたかも上段からズバッと袈裟斬りにされたような感覚。これが睡龍だと、スパッと胴を払われたかに感じる。注目されている両杜氏が醸す酒の個性、おやぢの目にはこう映るのだ。
さて、久しぶりの鯨の缶詰。須の子の缶詰は子どもの頃の好物の一つで、寒い時期は自然と固まる煮こごりをご飯にぶっかけてまで食べたものだ。生姜の利いた煮汁が懐かしいが、今回のは甘ったるいばかり。肉は軟らかく、癖や臭みもないのだが、だらっとした味わいで箸が進まない。記憶の中に残る鯨の、あの食感や味はもう二度と味わえないのだろうか。
商業捕鯨が禁止されて久しいが、食べ物や道具としての文化は、元来、民族固有のもの。牛や豚に鶏、虐待の産物フォアグラは平気で食べながら、鯨を食べるのは野蛮だの可哀相だのと、勝手な理屈をほざく国に遠慮する必要はなかろう。きちんと主張すべきところは主張して、乱獲を避けながらの商業捕鯨が、一日も早く復活されることを望む。
話が横道に逸れたが、竹鶴では酒が勝ってしまうため、『秋鹿 純米吟醸 無濾過原酒 2003 火入』の米由来の甘さに頼るが、こちらも開栓2週間を経て枯れた味わいに。竹鶴のような強さはないが、甘が引き、カチッと引き締まったキレを持つようになってきた。
これはやばい。酒が止まらなくなってきた。燗のつくのがもどかしいくらい。既製品ゆえ、家庭で漬けたものとは趣の異なる『はりはり漬け』を箸休めにしながら杯が進む。
気がつけば二人で6合半強。うぅむ、ちと飲みすぎたか。

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