おやぢは西へ -其之壱-
本来、表ネタなので、ここは裏らしく裏ネタに沿って…。
朝陽が眩しい大原の宿に着いたのは08:00前。某M氏の強いすすめにより訪ねたお蔵は、この宿場の中ほどにあった。
まさに「おはようございます」の時間にご当主とご対面。事務所に招かれると、奥のお座敷ではご家族がTVタイム。造りの時期じゃないにしろ、こののどかさは…。
ご当主からお蔵の成り立ちや岡山の酒蔵の移ろいぶりを伺う。「桶売り依存症から変わろうとした時に、あの阪神大震災。酒が足りなくなった大手からの甘い話(桶買い)に乗ってしまって、結局、変わり損ねた。そのツケが今もつづいていますよ」。
蔵を取り巻く環境は何処も厳しい。
この手の話はキリがない。時計を見やっていると、「古いだけですけど、蔵でも見ますか」というご当主の声に腰をあげる。
後について蔵の中へ。
うぅむ、かなりの古さ。それに空調らしきものがどこにもない。さぞかし打たれ強い酒になることだろう。一通り見せていただいて、お約束のジュルジュルタイム。
ずらっと並べられたお酒をきき猪口に…。「え!? その欠けた猪口使うの?」と、胸の中で声を上げたが、意に介さずどんどん注がれる。こりゃ、気をつけないと口を切っちゃうぞ。
手元にある二種の現行品は、『純米原酒』がちょっとぼやけた印象で、辛すぎると感じていた『雄町米の酒』は幅味があり、雄町らしいしっかりとした旨みがある。「あれれ!? 朝っぱらで口がおかしいか」。そのことを確認すると、「ブレンドが違いますから」という返事。「えぇ〜っ!?」。山廃がブレンドなのは聞いていたが、こっちまでそうだったとは…。知らなかった……。orz
M氏が「これが良いぞ!!」と力を込めていた酒、「某所のPBだけど、余所に回しても良いという許可をもらっているので、ごく一部に…」というものの原酒ヴァージョンを見せてもらった。きちっと味を乗せながら、後切れも良い。若干のハネは残るが、燗酒になれば問題ないレベル。熟成が進めば、さらに旨味が前面に出てくるだろう。Good!!
番外で追加された「これが元々の地の味」の上撰クラスと佳撰クラスも。
「M氏は家に来るとこれを抱えて飲んでいる」といわれた佳撰クラスは酸が勝ち、後味が平板に思われたが、びっくりしたのは上撰クラス。甘の余韻が上品で、この日の中ではまとまりがピカイチ。「抱えて飲むならこっちの方だろう」と、M氏へのネタを頂戴し、蔵から事務所へ戻る。
「飲みに出るのが億劫で…」。事務所に戻ってからご当主がこぼされる。うんうん、分かりますとも。小さな街ではどこへ行っても知った顔ばかり。挨拶しに行くのか、飲みに行くのか分からないほどだもの。挙げ句、飲み屋がきちんと飲める酒を出してくれないのでは、家に籠もるのも当たり前。
「さて、そろそろ」と暇を請うて表へ出ると、竹をうまく使って可憐な花が植えられている。「近所の人が作ってくれるんですよ」。道の辺の花に別れを告げ、大原宿を後にした。
【つづく】
やっぱりこの時期の蔵元さんは
まった〜〜りしているんですね。
「空調がない厳しい環境で造られるお酒は打たれ強くなる」について
なるほどー、と思いました。
過保護に造られたお酒はすぐにヘタっちゃうんでしょうか。
>まき子さん
>空調がない厳しい環境で造られるお酒は打たれ強くなる
これ、「造られる」もさることながら「貯蔵されている」ことに力点がかかってます。
ヤワな酒ではダレるか、老ねるかで、熟成させようにも元の形を保てませんから。
M氏からの電話でご訪問されたことは聞いていましたよ。
M氏いわく「あまりお気に召さなかったようだ」とのことでしたが、これを読んで一安心。
>nizakeさん
栽培会のPB山田は良いですよ。値段も、まぁ、あんなものでしょ。
ただ、雄町と純米原酒は…。桶を寄せちゃう所為でしょうが、味のブレが大きいかと。
手持ちのとまったく別な酒ですよ、あれは。