電子レンジ燗

食卓の傍らに火がない、すなわち湯を沸かし、徳利や銚釐・たんぽなどを入れる鍋や鉄瓶・薬缶がないことが当たり前の住まいでは、その手っ取り早さから電子レンジに頼ってしまうことも少なくないことと思います。

燗付けについては、良く「湯煎の燗が一番うまいというデータがある」とされますが、うまさが所詮個人の官能でしかない以上、多数決で得られただけの数値に何の意味があるでしょう。
ただし、それを鵜呑みにする人たちには、電子レンジ燗(以下、レンジ燗)や直火燗は「酒の扱いを知らない者のすること」「邪道」と、蔑んだ目で見られますから、ご注意を。
じわじわと温めることの効能は承知していますので、念のため申し添えておきましょう。

さて、前置きが長くなりましたが、要はレンジ燗でもうまけりゃ良い訳でして‥。
そのためにはレンジ燗の最大の弱点、『加熱ムラ』を克服する必要があります。
それには、某独立行政法人よりすごいと漏れ聞く『月桂冠総合研究所』の研究員により、2001年に醸造学会で発表された『電子レンジ用徳利の形状について』が大きなヒントになります。

  • 対流が起こりやすい
  • まんべんなく電磁波が当たる
  • 局所的過加熱を防ぐ

まず、こうした形状の器を用いることです。
mw_tokkuriこれが手元の、月桂冠と京大の共同開発によるレンジ用徳利です。
理論的には球状がベストでしょうが、使い勝手もありますから。
注目すべきは、その底部の形状(写真左の白色のもの)です。後ろのiMac同様、半球のドーム状になっています。
見た目の割に量が少ない『上げ底』徳利は良くありますが、こんな形は初めて。これが、上げ底で量を加減するというケチな発想からではなく、まんべんなくと対流を生みやすくすることを第一義とした重要なポイントになっているのです。

それでも温度ムラが気になったら、あるいは、そんな器はないし、わざわざ買うのも‥という向きには‥‥。
ここからが非理系人間ならではの乱暴なロジック。知恵とも云いますけど。:-p
なぁ〜に、困ることはありません。
同じような徳利などの器を二つ用意するだけ。
そう、燗が付いたら、もう一方に移し替えればいいのです。これで温度ムラはほとんど解消。
どんな器でも温度ムラはありますから、ていねいに仕上げる技として使っても良いです。

この技、実は‥ もう一手間かけると、生酒の燗にも使えます。
一気に温度を上げると、あの独特のムレ香様の臭いを発生させる生酒。じわじわと温めるとこれが薄らぎます。
レンジ燗でやるには徳利を2本用意し、適温まで移し替えを繰り返しながら数回に分けて燗をつけるのです。
コツは酒の温度上昇を一定にすること。時間的には最初を長く、だんだん短くセットすることです。
冷たい内は時間をかけても緩やかな上昇しか見せませんが、ある程度温まると、いきなり上昇カーブが急になりますから、単純に『適温までの時間÷回数』とはならないのです。
時季や酒質により3〜5回に分けていますが、お好みと最初の品温で匙加減してください。

この踊り場を作り、温度ムラを解消しながら仕上げる燗は、某店秘伝の技です。
名人は、燗鍋から上げてしばらく休ませた徳利の首を持ち、酒が渦を巻くようにくるくると手首を回すという、念の入れよう。これを飲み頃になるまで数回繰り返すのです。
ただの本醸造が見違えるような味わいに変わるのは、湯煎だから‥だけではなく、こうした細やかな手法、プロと呼ぶに相応しい技術があってこそかと。
これ、憶えておいて損はないですよ、ホント。:-)

また、徳利の首にアルミ箔やラップを巻くという方法もありますけど、アルミ箔はともかくラップはアテにならないでしょう。
アルミ箔も電子レンジを傷める原因となることがあるようですから、取扱説明書の精読をおすすめします。
ラップを使う技としては‥
きっちりと密封させ、器を逆さまに電子レンジに入れるという猛者がいることを紹介するにとどめます。

でも、そんな面倒をするより『徳利2本で移し替え』技の方が、誰が見たって簡単でしょ?
それに、『どう燗をつけるか』よりも、飲むお酒によって異なる『燗の適温を見極める』ことの方が、燗酒をよりおいしく飲む秘訣であると思いません?

最後に‥
あくまでも経験則に基づく勝手な考察であり、何事も数値での裏付けを得ないと始まらない、理系な方の論と比較しても意味がないことをお断りしておきます。:-)

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電子レンジ燗” に対して6件のコメントがあります。

  1. やす より:

    こんにちわ。
     私も以前は湯煎でやっていたのですが、燗徳利割ってしまい(汗)電子レンジのお世話になっております 苦笑
     で、私の達した結論も同じです。
     徳利ないのでカップでやりますが、2つ出して燗したのをもう一方に。
     器も熱くなく飲み易さもいいですね。
     お猪口もイイのですが、3歳児の怪獣いると落としたりの危険も孕みますので最近はカップ酒ばかりになってます w

  2. Masamune より:

    Welcome!>やすさん
    ご賛同いただき、ありがとうございます。
    大きめのミルクピッチャーで代用している知人もいますよ。
    そのカップは、バンビカップ?それともルミカップ? 🙂

  3. nizake より:

    丁寧なご説明ありがとうございます。
    私は試飲する時が湯煎。自分で飲むときはレンジです。それでも旨い、うまいからよい。
    直火燗はバンブークレーンのK君の得意技です。これも酒によりますが、狂わない酒があることは事実。うまいから嬉しい。それでよい。

  4. Masamune より:

    >nizakeどん 🙂
    以前から書いてみたかったことなので、とりしやさんに良いきっかけをもらいました。
    造り萬流、燗も萬流。
    多少のことではビクともしない、燗でうまくなる酒、その酒に見合った飲み頃・温度を見つけることにこそ、心を配りたいと。
    しかし、暮れにこんな長文を書く暇があるのかって‥‥(-.-);

  5. とりしや より:

    おやぢさん
    大変勉強になりました。ご多忙中の折、大変だったでしょう。ありがとうございました。これにて当店もシドニー一の燗酒処となることでしょう。
    ところでもう一つ。
    この別の徳利に移し替える際、当然酒の温度は下がりますよね。ということは熱燗で呑もうとすると最初のチンで55〜60度に上げておかねばいけない訳ですね。

  6. Masamune より:

    >とりしやさん
    それも含めての移し替えです。移した後の徳利の底で温度を確認。足りないようなら、もう10秒とか。
    移し替える方の徳利を湯にくぐらせるか、湯を注ぐとかで、予熱することできませんか?
    いずれにしろ、当日の室温や品温で微調整は必要です。現場合わせよろしく、何度か試してみれば良いのでは?
    酒の具合もきけるという役得にも与れますし‥。:-)

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