雪中行軍 其之弐
ここへお邪魔するのはいつも夕方。蔵の裏の亀の尾の田圃も雪に覆われている。
ドカ雪の内陸部にお出かけのご当主が遅れそうだからと、ゆっくりめに着いたのだが、まだお戻りじゃなかった。
母屋のお座敷で初めてお会いする杜氏さんとご挨拶を交わした後、連れとともに蔵を拝見。
凍てつく寒さの蔵内でここだけは別世界の室に入れてもらったら、良い麹の匂いが充満している。
毛布にくるまれた麹が2種類。出羽燦々の麹をかじらせてもらう。米粒が大きいのにびっくり。「55%くらいですか?」「40%だね」「これでですか?」「心白も大きいからな‥」。
寡黙な杜氏さんが訥々と語ってくれる。
枯らし場には出麹された亀の尾が。こちらは異常に小さい。「これ、40%の大吟用ですか?」「55%だな」「これで?」。亀の尾って、こんなに小さかったっけと、またまたびっくり。「小さいし、硬い米だから、水を吸わせるのがたいへんなんだぁ」。自らも亀の尾を栽培するという杜氏さんの庄内弁の語りが再び。
もと場や醪を見て、お座敷でご当主のご帰還を待つ。「いやぁ、除雪につかまっちゃって‥」と、にぎやかにご登場。あれこれ話をした後、「今日は家内の手料理で」と、実にありがたいお話。
宿のチェックインを済ませ、再度、蔵に戻る。
今晩の会場は蔵人さんたちの食堂。
漢数字(男性用)といろは順(女性用)に番号が振られた昔懐かしい箱膳が箪笥に収まっている。
テーブルの上には手づくりの品々が並び、ご当主、杜氏さんと差し向かいで宴が始まる。
ご当主の体型よろしく二合半から三合は入りそうな徳利には出羽燦々の40(?)%が、杜氏さん体型のすらりと細身の徳利には亀の尾が注がれ、直々のお酌で乾杯。
「まず、この味を覚えておいて」と、亀の尾40%火入熟成酒を冷やで。残りが燗鍋に浸けられる。「50℃くらいかな」とお内儀に指示するご当主。待ちきれずに人肌燗辺りでつまみ飲み。
「これでどう?」と温度計で50℃に仕上がった亀の尾が。後に苦を感じたので「もっと熱くしないと」で、目視上の飛び切り燗へ。「いけない!! 熱くしすぎちゃった」とお内儀の声。「お宅のお酒はそんなにヤワじゃないですよ」と減らず口を叩きながら、持つ方がたいへんな熱さの徳利からお酌を受ける。「ほらぁ、良いじゃないですか」「へぇ〜、ウチの酒、こんなになるんだ」と、ご当主の驚きの声ににんまり。:-)
「熱いうちに‥」と、頂戴した鱈汁からは酒粕の香りも。白子を含み、酒を運ぶ。口の中で溶け合って、幸せを実感した後は、鱈をしゃぶり尽くす。「烏賊刺しはこうやって山葵醤油で和えた後、刻み葱を散らして」と、ご当主から蔵人風の食べ方を教えていただき、ツンと鼻にくる山葵と烏賊の甘さの対比を。地の野菜の漬け物が箸休めにぴったりだし、えごねりの和え物からは磯の風味が。「賄いで良く作るんですよ」と珍しいカレー味のモツ炒めなど、お内儀心づくしの品々を堪能しながら、燗酒が進む進む。
トドメは「蔵ではいつもこれですよ」と、五百万石55%の薬缶燗。
やや金っ気が気になったが、郷に入らば郷に従えだ。どれ飲んでも旨いし、酒談義は果てがないもの。「うんめがっだぁ」。
そろそろ蔵ではお開きとのことで、ジャンボ厚焼き卵と宿で飲む純米酒の中から連れに合わせて宿酒を選択。
連れの部屋でお手製の漬け物と飲む燗純米。ちょっと温度が低すぎたように思うが、扱い慣れていないゆえのご愛敬だろう。連れがこんなに燗酒を飲むのを目にしたのは初めて。冷やと飲み比べさせ、「これなら良いでしょ?」と、ここぞとばかりに真っ当な酒と燗酒楽園へ、あの手この手の籠絡を続けながら庄内の夜は更けていくのであった。
翌朝、やっと純米を扱う気になってくれた若女将に、不肖おやぢが燗温度のレクチャーをさせていただきましたよ。>ご当主
お疲れ様でした。家内が「お内儀だなんて
そんな。。」と照れております。
また、どうぞ。お待ちしております。
たいへんお世話になりました。m(__)m
日本海沿岸道がせめて鶴岡までつながってくれたら‥ 仕事を終えてからでも行ける距離なんですけどねぇ。
nizakeさんみたいになっちゃうか。(^^;
いやーー、おやぢ殿のブログの台本に沿って、私の頭で映像が(勝手に)どんどん創造されていきました。なにか、こう、すごくほんわかしたような、懐かしいような感覚です。映像と共に味わいも勝手に創造されていきました。
ごちそうさまでした!
Virtual純米酒で良ければ、どうぞたんとお召し上がりを。:-)
TANKさんとのお酒は楽しいですよ。帰国されたら、ぜひお出かけください。
酒田の名居酒屋の出店もありますし‥。
って、強飲な見学者ばかり増やしてどうする。(^^;;