生酒の燗から

燗酒おやぢは何が苦手かって、生酒の燗ほど苦手なものはありません。
あの、もわぁ〜っとした臭いをわずかでも感じた途端、「うげ〜っ!!」となります。
この香りについては、『煮酒で呑』のkanzakerakuenさんは「生老ね香」と称されていますが、「ムレ香」とする向きもあります。
いずれにしろ、主にイソバレルアルデヒドがもたらすあの香りは、好んで嗅ぎたくない「匂い」ではなく「臭い」に違いありません。
ただ、中にはこの臭いをまったく苦にしない人もいます。
閾値の差とはいえ、あれが気にならないだけでも、おやぢの目には「剛の者」に映るのです。
生酒は、無理に燗をつけなくても良いのではと、あの臭さが平気な方だけにおすすめすることにしています。

少し話が逸れますが、おやぢは「仕込みは火入で完了する」を持論としていますから、昨今の無濾過生原酒こそが「できたまま」「純粋」「無垢」「素顔」の酒とする風潮には、はなはだ疑問を感じています。酵素という不安定な物質を死活させずに残すことが、果たして完成形なのだろうかと。
未熟児をいきなり成熟児と同じに扱う医療関係者や親はいません。それを無視して、あえて「生」を選択する理由はどこにあるのでしょう。

もちろん、限外濾過を行えば酵素も除去されますから、火入の必要はありません。この技術が生酒の常温流通を可能にしたのですが、肝心の香味まで取り去っては本末転倒でしょう。
確かに、火入で酒は変わるという欠点もありますし、生酒の方が熟成が早いという利点も認めますが、その間、あるいは蔵から出た後の貯蔵(保存)管理は、ただ低温を保てば良いというものでもありますまい。
たとえ時間はかかるとも、適切な時期にきちんと火入れし、熟成させてこそ味わえる形。それこそが、日本酒が文化にまで至った基本形であり、完成形でもあると思います。
そのためには、むしろ、火入(主にタイミング)と貯蔵・出荷管理の技術や手法の向上を図るべきではないのでしょうか。

火入が下手(タイミングの見極めややり方)が下手だから、もしくは火入に適した酒を仕込む腕がないから、その工程をスルーするということであれば構いませんが、それはまた別の話かと。
 


【ムレ香】
生酒を常温で貯蔵(保存)したときに発生する不快臭。
原因物質としてイソバレルアルデヒド、イソバレリアン酸エチル、イソバレル
アルデヒドジエチルアセタールの3物質が同定されている。

【生老ね香】
生酒を貯蔵(保存)した場合に発生する。ムレ香と同系統の不快臭。
老ね香がある程度強くなると生老ね香と呼び、生酒の過熟によって発生すると
考えられている。

ー改訂 灘の酒 用語集よりー【禁無断転載】

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生酒の燗から” に対して5件のコメントがあります。

  1. kanza より:

    おやじ殿
    >あれ、生老ねやムレ香がないものもありますよ。生酒全般が必ずその臭いがあるとは限りません。
    片っ端からお燗するのが良いでしょう。…ってしてるよね。

  2. TANK より:

    おっしゃるとおり、生酒の燗は避けてます。
    が。。。時々、生酒なのに、にごり酒なのに
    燗して美味しい酒があります。
    無論、仲間(交流会)の酒なのですが、
    弊社では、まだ実現してませんが、なるほど
    そういう酒は「うっー!」とこないよなと
    納得はしています。造りもある程度は理解して
    いますが。恐るべし蔵元交流会。

  3. Masamune より:

    最後に生を燗したのは、いつだったかしら‥ というくらい、自発的にはしていませんでしたねぇ。
    そうそう、杜の都では、「出てないね」といった記憶があるから、半年前ですわ。
    出た酒の後始末を考えると、つい腰が引けちゃうのですが‥
    そろそろ生酒怖い症候群を治さなきゃダメかなぁ。

  4. 「生もとのどぶ」の生も少しだけ出荷されたのですけど、あれのぬる燗はなかなかうまかったです。味噌汁の椀でぐびぐびと飲んでました。

  5. Masamune より:

    >生もと教信者さん
    kanzaさんの掲示板に埋められたメールアドレス、宛先不明で戻ってきましたよ。
    Gmailからのメール、文字化けしていませんでした?

    睡龍は、まだ飲んだことがないんです。関東方面の知り合いがちょっと騒いでましたが、加藤さん→K嬢のラインだから都度反応があって当然なので、模様眺めを決め込んでいたのに、後ろから突っつく人が‥。:-)

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