年明けの便り2014
恒例となった木曾の佐藤阡朗さんの49回目となる『たらの芽通信』を拝借いたしまする。
喜左衛門井戸のこと
先ごろ、根津美術館で五十年振りに国宝大名物大井戸茶碗(本多)に出逢った。
最初は学生の頃みたが、柳宗悦が「茶と美」で一見その良さが見えなかったと述懐してたのを読んだ時私にも薄汚いだけの雑器にしか見えなかったので、なにかホッとしたのだったがその後すぐに師は「無事」に気付き、私はついにその価値は見えなかった。
南方熊楠(明治元年生れ)は奇行で知られる巨大な学者である。その彼が終生考え続けた自然の恵みとその環境の相互関係を曼荼羅で示し、螺旋の図形で描き生物の大宇宙観をしめしていた。
また今から千二百年も以前に真言密教を修めた弘法大師(空海)は、宇宙の児としての我々人を含む命は全てそのままで仏身になれると説き、宇宙のコア(核)が「何者か」に気付いていたそうである。
両氏とも膨大なエネルギーの運動に傷を付けず、人が自然の法則に同化し添う努力の大切さを強く我々に訴えていた。
人のもち得ないエネルギーの大調和と、動きの流れの理で喜左衛門井戸が創られている。いや、生まれていると見えた。
ケースの中のあのなんでもない茶碗は茶道の名物といわれる以前から十六世紀に渡来した高麗茶碗であった。口縁から竹節高台までの流れるリズムと力に無理はない。まさに「有理の美」を見せている。
一瞬妙なる楽の音が聞こえる錯覚に陥った。2014年1月
漆工 佐藤 阡朗
(原文のまま)
改めて、穏やかな一年でありますように!
●件の茶碗についてはこちらで♪ → 喜左衛門井戸